東京高等裁判所 昭和34年(ネ)2295号 判決
控訴人(原告) 平沢貞通
被控訴人(被告) 国
訴訟代理人 武藤英一 外一名
原審 東京地方昭和三四年(行)第一〇七号(例集一〇巻九号175参照)
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取り消す。本件を原審に差し戻す。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
控訴代理人は、原判決事実摘示記載のとおり、本訴請求原因を陳述した外、次のとおり陳述した。
(一)、原審は、本件口頭弁論期日として指定した昭和三十四年九月二十三日午前十時に、原判決の言渡をなした。
右は、判決言渡期日の告知なくしてなした判決の言渡であつて、不適法である。
(二)、原審のなしたかかる裁判は、原告(控訴人)及びその訴訟代理人たる弁護士を冒涜し、信義誠実に反し、裁判権の濫用である。
理由
記録を調査するに、原審裁判長裁判官石田哲一は、昭和三十四年八月七日本件口頭弁論期日を昭和三十四年九月二十三日午前十時と指定したこと、原告(控訴人)本人及び被告(被控訴人)代表者法務大臣井野碩哉に対し右口頭弁論期日の呼出がなされたこと、原審は昭和三十四年九月二十三日午前十時の本件口頭弁論期日において、口頭弁論を経ないで直ちに本件訴を却下する旨の判決の言渡をなしたことは明らかである。
しかして、原審に提出された訴状を見るに、控訴人を取り調べた検事出射義夫の作成した聴取書の成立の無効なることの確認を求めるものであるところ、かかる訴は、民事訴訟法第二百二十五条の書面真否確認の訴に属しないことはいうまでもなく、かかる訴は行政訴訟事項にも属しないものというべきである。従つて本訴は、民事訴訟法第二百二条の「不適法なる訴にして其の欠缺が補正すること能はざるものなる場合」にあたることは疑を容れないから、原審が口頭弁請を経ないで、訴を却下する旨の判決を言い渡したことに何んらの違法はない。そして又このように、口頭弁論を経ないで不適法な訴を却下する判決をなす場合には、判決言渡期日の呼出状を当事者に送達することを要しないから、原審が控訴人に対して言渡期日の呼出状を送達しなかつたことも何等違法ではない。
もつとも原審は当事者に対し口頭弁論期日の呼出をしているが、これは不要の手続をとつたものと解すべきである。しかもこのような不要な手続を経たからと言つて、このことが本件判決言渡手続の瑕疵となる理由はない。要するに原審における本件判決言渡手続にはなんの違法もないものというべきである。
従つて、又かかる原審における裁判をもつて、裁判権の濫用となす控訴人の主張も全く採用に値しない。
よつて本件控訴は理由がないものとして棄却すべく、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 松田二郎 猪俣幸一 沖野威)